2012年11月28日水曜日

スマート珈琲店





「京都へ行くならこの喫茶店がお勧めやで」と友人に教えてもらったのは、スマート珈琲店。京阪三条駅から徒歩5分程の寺町通りにある。まず看板のロゴマークに釘付けになった。白地にこげ茶色で描かれたシンプルな影絵になっている。男性と女性がテーブルを挟み、お茶を楽しんでいるイラスト。店内は平日の2時ぐらいだというのに満席。入って右手に、高さ2メートル弱のドイツ製プロパッド機が出迎えてくれる。約40年前から、この機械を使って今も豆をひいているという。

 店長は、3代目の元木章さん(36)。創業者のお爺さんは、徳島から京都にやってきたと
き、「近すぎず、遠すぎず、気の利いたサービスを」という想いを込めて、「スマートランチ」を創業し、戦後「スマート喫茶店」に名前が変わった。店のロゴマークもお爺さんが考案し、元木さんは小さい頃からこの影絵を見て育ってきたという。

「出勤前の1杯、仕事後の1杯、待ち合わせの1杯と、お客さんにとって特別な場所でありたい」と元木さんは優しげな表情で語った。

 
おすすめは、ホットケーキ(550円)。素朴だが、食べ終わるまで新鮮な味わいがある。季節により、粉の配合や練り合わせ方を変え、いつ食べても同じ味になるよう工夫しているという。隣の席では、ホットケーキを注文した女性が、ホットケーキの上にある手作りバターを、フォークでクルク   ルと回しながら溶かしていた。
奥の席では、常連客らしい和装姿の女性と背広姿の男性が、ホットコーヒを注文。元木さんは、コーヒーカップを、ボールに入った熱湯に勢いよくくぐらせ、決まった角度から艶やかな色したコーヒーを注いでいた。

その名の通り、スマートな心配りが三代に渡って引き継がれている。約80年に渡り「変わらない」という新鮮さと懐かしさが、この喫茶店には漂っていた。
 
 
 
 
 

2012年9月23日日曜日

エミール・パコ

 

「山小屋の灯」

 地下鉄扇町駅から西へ歩いて10分ほどのところに、森のなかの小さな山小屋風の建物がひっそりと建っている。「エミール・パコ」というネオンに誘われるように中に入ると、薄暗いなかで灯るランプが温かい。

店長の山崎好三さん(56)は、サラリーマンを辞めて、昭和53年にお兄さんとエミール・パコを創業。「店名は、『パンとコーヒー』からつけました。『パコ』の前に何かつけなあかんと思って、『エミール』をつけただけ」と、強面の顔が一変し穏やかに笑う。山歩きが好きで、中部地方の山はほとんど登ったという。壁は丸太で出来ており、入口のドアの上には「エミール・山荘」という木彫りの看板も。10席ほどのカウンター席の上には、コーヒーカップが列をなしてぶらさがり、いまにも「ブランブラン」という音が聞こえてきそう。食器を集めるのも好きという山崎さんは、120ほどあるカップのなかから、その時の気分で選んで、お客さんに出しているという。



 


小さなテーブル席で友人と話していると、「エミール・パコ」という電車に乗って、少しの間、現実から離れた旅をしているような気分になる。あっという間に時が過ぎてしまうほど、居心地が良い。

 山崎さんは、「店は僕にとって、仕事でもあり、遊びでもありますね。好きなことをしているから幸せです」と可愛らしい顔で笑った。
 

 
大阪市北区神山町10-3

06-6311-8220

午前10時~午後9時   日・祝日休み



2012年9月16日日曜日

築地


「変わらないということ」

 阪急河原町駅から北へ歩いて5分もかからない。河原町通りと木屋町通りの間にある、昭和9年創業の喫茶店。2階の外窓についたランプの光に誘われるように樫製の扉を開けると、壮大なテンポのクラシックに包まれた。扉を開けて右手にはガラス越しに調理場が見える。前にあるもう一つの押し扉を開くと、アンティークに囲まれた小世界が目の前に広がる。

築地という店名は、松竹で働いていた創業者が、新劇の「築地小劇場」にちなんでつけた。いまは3代目だが、この日はロマンスグレーのダンディな2代目が珈琲を入れていた。

「私は引退したんや。何にも話すことはない」から始まり、しばらくするとポツリポツリと「世の中気に入らん。けったいな世の中や。おかしくなっとる」と語り始める。築地の周りにあった老舗はどんどん潰れていっているという。昔は楽しかったとカウンターに手を置きながら、珈琲カップを手にとり、一口飲む。昔と今とで一番変わったことは何かと問うと、「人のハート」と、こぶしで胸を叩いた。

壁には100年前の時計や、あちらこちらに絵画や食器などが飾られている。クラシックはまるでそれらのアンティークと語り合うように流れている。馬車やランプがあったあの時代だからこそ書けた曲、200~300年経っても残る本物の曲をかけているという。

この店の内装も外観も、創業当時のまま残している。改装するのは簡単だが、維持していくほうが手間がかかるそうだ。新しい絵を買ってきてもかけるスペースがないので、一枚外して新しい絵をかける。でも、落ち着かないので、また外して元の絵を同じ場所に戻すことになるという。「40年前、この店でお見合いした人が、あの時と同じ場所に絵が掛けられていることにびっくりする」と頬を赤らませてはにかんだ。

人が年をとり、時がどれだけ流れても、同じモノが同じ場所にある。変わらないという、ただそれだけのことで、ハートが温まる。大切にしたい時間がここにはある。
 
 ウィンナー珈琲を飲み外に出た。新しいビルと古い建物で並ぶ河原町を歩くと、今出てきたばかりの築地が、なんだかとても恋しくなった。


築地



京都市中京区河原町四条
上がる東入る
075-221-1053
11:00~23:00 (夜10時以降入店可)
ランチ営業、日曜営業


2012年8月16日木曜日

うてな


「見晴らしの良い高い場所」


 

「うてな」とは、見晴らしの良い高い場所という意味。店長の坪倉さんは、公園のすべり台の上に立ったときをイメージしたという。地下鉄中崎町駅から北へ歩いて5分もかからない。古い街並みで、店の通りには長屋が連なっている。

 昭和戦前に建てられた長屋の壁は、下地の土壁があらわになっていて、表面を触るとザラザラ。天井を見上げると、真黒な木の骨組みが見える。床には防空壕の痕も見え、古さを醸し出している。1階が喫茶店で、坪倉さんは2階に住んでいる。

 坪倉さんは、学生時代から純喫茶巡りが好きだったことが高じて、10年ほど前に喫茶店を開こうと決意。京都の御多福珈琲店で一ヶ月間働き、2006年にうてなを開いた。豆は、御多福と同じ西陣の焙煎所で仕入れている。焙煎所へ見習いにいった初日、師匠と一日中、囲碁の相手をさせられたと思い出し笑いをする坪倉さん。コーヒーを味わうのではなく、お客さんが喫茶店の雰囲気を味わえるようなお店になるように、と師匠から教わったという。

 
 沸騰しっぱなしのやかんの湯気や、一時間ごとに「コーンコーン」と鳴り響く壁掛時計の音を聞いていると、学生時代に過ごした合宿所や食堂にいるみたいな気持ちに。陽も落ちれば、まるで近所の家に遊びにいくようにポツリポツリとお客さんが集まってくる。気さくな坪倉さんの一言で、客のみんながプッと吹き出し笑いをするような温かい喫茶店だ。





大阪市北区中崎西1-8-23

06-6372-1612

午後0時~8時

火曜日・第1月曜日定休日

2012年7月8日日曜日

太陽ノ塔

















細い路地に古い民家が並び、銭湯、小さな喫茶店、料理屋、雑貨屋で賑わっている中崎町。下町の風情さに、繁華街の梅田から歩いてすぐとは思えない。地下鉄中崎町駅から北へ歩いて5分ほどの「太陽ノ塔」は、9年前に創業し、5店舗あるなかの第1店目だ。

外観は、いたって平凡。でも、ガラス越しに店内を見ると、どこか異次元の世界を覗きこんでいるような気持ちにさせられる。天井は赤色の骨組み、レトロなランプやシャンデリアがぶら下がっている。

店名から、大阪万博の「太陽の塔」を想像してしまうが、太陽の塔のオブジェなどは一つも見当たらない。「オーナーは、太陽の塔が好きだったわけじゃなくて、ただ店名にインパクトが欲しかっただけだそうですよ。あやかり系ですね」とお日様みたいに笑うアルバイトの久川麻衣子さん(30)

久川さんともう一人のアルバイトの中西維さん(24)は、互いに「キューちゃん」「ユイちゃん」と呼び合いながら手際良く下ごしらえをしている。フライパンの上に、山盛りの細切り人参、ミキサーにかけた野菜などを混ぜ合わせ、30分かけてデミグラスソースを作る。このソースを使ったロコモコ(680)やオムライス(780)が人気商品という。出来立てのソースがフライパンごとカウンターに置かれると、今度は「ゴウッ」というガスバーナーの音を立てて、中西さんがクリームブリュレを作る。カウンターに座って、料理の手さばきを眺めていると、自宅のキッチンでくつろいでいるような気持ちに。

お客さんは、若者が多いが、平日のお昼には、老夫婦がコーヒーを飲みに来たり、2階にある映画館から観終わった人も訪れるという。黄昏時、何故か懐かしい気持になる喫茶店だ。







〒530-0016
大阪市北区中崎2-3-12 パイロットビル1階
TEL:06-6374-3630
午前11時~午前0時(平日)
午前10時~午前0時(休日)




2012年5月10日木曜日

ゼー六

「店のひとこま」

 
 堺筋本町のオフィス街にある木造の喫茶店。大正2年に和菓子屋として創業。空襲からまぬがれ、店の骨組みや御影石などは創業当時から変わっていない。店内はたった4席。戦後から自家製アイスモナカを販売する喫茶店になったという。

アイスモナカ(100円)は、シャーベットのようで新鮮な味。真冬に食べても、体が冷えないのが不思議だ。アイスモナカの皮は、かつて和菓子屋さんだったことから、もち米を使っているそうだ。昔からの作り方で、毎朝6時から作っているという。コーヒーの豆は、休日に店で焙煎しており、「原始的な方法やから、人には見せられへん」と首を倒しながら笑う3代目の廣瀬光徳さん。アイスモナカとセットで300円。店員のおばちゃんが、目の前でコーヒーミルクを“ストップ”というまで入れてくれる。コーヒーとアイスモナカは、交互に味わうと相性がいい。


歩道を行く人、自転車をこぐ人たちは足をとめて、ひっきりなしにゼ―六の持ち帰り用の窓に集まってくる。お客さんに、「どこまで、どうやって?食べながら?」と声をかける廣瀬さん。「大阪駅まで。自転車や」と返事が返ってくると、おばちゃんは、目にも止まらぬ速さで、新聞紙でアイスモナカを包み込む。帰宅時間が10分で一巻き、20分で二巻きと教えてもらったが、初めて見ると一巻きも二巻きも区別がつかないくらい、全て重装備な包みに見えた。

相席で目の前に座っていた男性は、夕刊に掲載されたゼ―六の記事を読み、「えらい大きく取り上げられたなぁ」と廣瀬さんの方を向きながら話している。目が合うと「ここのページやで」と、まるで自分のことのように嬉しそうに新聞を渡してくれた。













住所:大阪市中央区本町1-3-22
電話:06-6261-2606
営業:AM9:00~PM:6:00(第1・3土曜はPM3:00まで)
定休日:日・祝日&第2・4・5土曜日

 


2012年5月7日月曜日

平岡珈琲店


「大阪で1番古い喫茶店」

 カラカラと扉をひくと、お客さんたちの話声に包まれる。大正10年創業の平岡珈琲店は、地下鉄本町駅から北へ歩いて5分ほどのところ。珈琲を入れているのは3代目の小川清さん。


 店内の木の壁には、写真がずらりと飾られている。プロ以外の方を対象に、無料でギャラリーとして提供しているそうだ。3週間に1度のサイクルで展示物を変え、2年先まで予約で埋まっているという。12年前から始まり、今まで展示されてきたものは、能面、猫の写真、人形など。全身ピンク色の人形ばかり飾られたときはちょっと気持ちが悪かったと、思いだし笑いをする小川さん。「ギャラリーを借りるのは高額。せっかくの作品が埋まってしまうと可哀そうだから、こうしていろんな人たちに見てもらえればね」と話した。


カウンター席で小さな女の子が、外国のコインを手のひらに乗っけて、「おじちゃん、これで払っていい~?」と話している。そんな会話を聞きながら、手作りドーナツ(120円)を食べ、深みのあるブレンド(320円)を飲むと、一人で味わっている気がしない。飲んでいる間にも、次々と常連さんが店に入ってきて、「もうドーナツ売り切れました~」と呼びかける小川さん。杖をついたお婆さんは、それでもいいよと頷きながら席に座る。

 カウンター席に一人で座っていた女性は、祖父の代からの常連で、「あそこの珈琲はおいしいで」と話すのを小さな頃から聞いていたそうだ。そして、平岡珈琲店の近くでアルバイトをしている頃、毎週のように通うようになったという。この日は、近所で教えているオーボエ教室の帰りに立ち寄ったと話し、「今日は、生徒さんが吹けるようになって嬉しい」と目を細めながら、コーヒーカップを口に近づけた。

岡珈琲店
〒541-0048 
 大阪市中央区瓦町3-6-11
06-6231-6020
月~金 午前7時半~午後6時
土   午前7時半~午後1時
定休日 日・祭日